21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

クックパッドは上場するらしい

クックパッドが株式公開するかどうかは知らないがと、昨日のブログを書き終えた数分後、グーグルの検索結果の中にクックパッドIPOという記事が見つかった。それほど、株式市場というものへの関心がなくなっているのかとしみじみ思った。そういうことが、決して、悪いことじゃないと感じるようになっているから、かなりの重症だ。

株価の初値がどうなるとかにはまったく関心がないが、今回の株式上場で、今後、この企業の志がどのように現実に試されていくかということはとても気になる。そんなこともあって、オンライン証券のサイト経由で、発行目論見書をダウンロードして読んでみた。

たしかに、経営者や従業員中心で、ベンチャーキャピタルが一切入っていないという現在の株主構造は、引受証券(野村證券)からすると、「小さく産んで大きく育てる」という彼らの得意で、好きなパターンにはまっているのだろう。おそらく、株価は、ここ、しばらく順調(あるいはかなり高め)に推移することになりそうな気配がする。

今年は、利益が3倍近く伸びているが、この200%近い利益成長が今後数年どう推移するかで、時価総額が形成されていくことになる。

企業経営の観点から見ると、株式公開の意義は、事業成長のためのエクイティ資金の取り入れが容易になること、今後、株式を使った、株式交換などの買収がしやすくなることなどがある。目論見書の手取り金のつかいみちの欄を見ると、

「上記の手取概算額1,296百万円については、サービスの安定化に向けたサーバー等設備投資に470百万円、関連費用としてデータセンターの賃借料に435百万円充当する予定であります。残額につきましては、優秀な人材の募集・採用および教育体制の構築と業容拡大に伴う本社増床費用等の運転資金に充当する予定であります。」

ユーザーが急増するのに対応すべく、ウェブサイト運用能力の増強に充てるというのも、理に適っている。

目論見書の中でも、会社が、自分の事業のことを語っている部分が一番興味深い。目論見書作成の際には、発行会社と引き受け主幹事の間での対話が行われる。

自分の事業を、素人(証券会社)にわかるように説明するというのは、きわめて重要なプロセスだ。自分が誰かは、他人に自分が誰かを説明する過程でしか、明晰には理解できないものなのだ。そういうプロセスを経たはずなのに、何をやって儲けているのかが、よくわからない目論見書も多い。わかりにくいところに、本当の価値が隠れている場合も稀にはあるが、自分のことをしっかりと説明できない会社は、やはり将来どこかで問題が生じてくるような気がする。

この会社の目論見書によると、彼らの事業

「① マーケッティング支援事業
マーケティング支援事業では、食品、飲料、家電・調理器具製造・販売事業者、流通業者等を顧客としており、顧客の扱う商品やサービスの認知度の向上や、利用方法の理解促進といったマーケティング支援を行う目的で、当社サイト「クイックパッド」及び「モバれぴ」内にタイアップ広告を掲載することで顧客から収入を得ております。当社のタイアップ広告においては、顧客に対して、利用者のレシピ閲覧数やレシピ印刷数といった指標を提供することができるという特長があります。掲載されるタイアップ広告の種類として、主に「レシピコンテスト」、「スポンサードキッチン」といったものがあります。

レシピコンテストでは、当社サイト上で利用者に対し、顧客の扱う商品を利用した料理レシピを募集します。顧客は、料理レシピの募集を通じ、利用者に実際に商品を使用してもらうことにより、認知度の向上に繋げるとともに、投稿されたレシピから、新しい商品や既存商品の新しい利用方法を生み出し、商品の開発及び販売促進に役立てます。また、投稿されたレシピは、当社サイト内にとどまるため、レシピコンテスト後も利用者の検索対象となり、顧客にとっては商品の需要底上げが期待できるといった特徴があります。

スポンサードキッチンでは、当社サイト上で、顧客が自ら顧客の扱う商品を使用した料理レシピの掲載を行うことにより、利用者に対し、商品の認知拡大と需要喚起を実施しております。利用者は、スポンサードキッチンに掲載されたレシピを実際に調理した結果(感想)をレポートする「つくれぽ」を投稿することができます。「つくれぽ」はレシピに対する評価として、スポンサードキッチンに参加していない他の利用者にも閲覧されるため、顧客にとっては商品を利用したレシピの波及効果を期待できるといった特徴があります。

また、当社では「クックパッド」ID登録利用者の検索ログデータ(「カレー」「鍋」「運動会」「さっぱり」等の検索キーワード)の分析ツールを「たべみる」として顧客に提供しております。「たべみる」は、ID登録利用者の検索ログデータを週次、月次、地域別に分析することが可能となっており、顧客のマーケッティングや営業企画、商品開発に利用可能な情報を提供することで利用料を得ております。

② 広告事業
「クックパッド」及び「モバれぴ」は、料理に関連したサイトであるため、利用者は料理を日常的に行っている女性が中心となっております。このため、女性を対象として自社製品の認知拡大や自社サイトへの誘導を行いたい広告主に対して、主に広告代理店およびメディアレップを仲介して当社サイトへの広告枠を販売することで広告収入を得ております。具体的には、顧客の扱う商品の認知拡大や顧客サイトへの誘導を目的としてバナー広告の掲載やメールマガジンの配信等を行っております。

③ 会員事業
当社は、原則として「クックパッド」及び「モバれぴ」を利用者に無料サービスとして提供しておりますが、より高い利便性を求める利用者に対しては、人気レシピ検索およびレシピ保存容量の増加のための機能をプレミアムサービス(有料サービス
として提供することで、月額294円(税込)の会費収入を得ております。また、その他に「クックパッド」の認知拡大を目的として、ID登録利用者の投稿レシピを掲載した本の出版により収入を得ております。」

ビジネスモデルなどという言い方が流行しているが、その会社が何をしているのかを理解するもう一つの方法としては、売上の内容を見るというやり方がある。

ぼくが財務諸表をざっくりと眺める時に、少し気にしてみるのは、売掛金や買掛金の相手先別内訳のリストがある。どういった会社にサービスを売って、どういった会社からサービスを買っているかがわかると、その企業の日常的なイメージが、なんとなくクリアーになってくる。

この会社はというと、
売掛金
デジタル:アドバタイジング・コンソーシアム 4231万7000円
ミツカン 2466万1000円
サイバー・コミュニケーションズ 2273万5000円

などの名前が見える。代理店経由で収入を得る、広告事業部門の取引先としてのDAC,サイバー、そして、マーケッティング支援事業の代表としてのミツカンという風に、この会社の個性がある意味はっきりとあらわれている。

従来型の広告の効果がどんどん疑問視されている中、この企業の売上の6割を占めるマーケッティング支援事業が、この会社の個性であり、将来のカギとなるのだろう。

企業というのはモノでもサービスでもとにかく売らなければ存続できない宿命がある。従来型の広告支出が減少したからといって、企業が、販売促進活動を抑制するわけではない。使われるお金のありかたが、他メディア時代に、見直されているのである。そして、モノやサービスを売りたい企業にとって、企業と消費者が対話をする中で、そのシーズとニーズを直接にぶつけあうことができるインターネットコミュニティのもつ潜在力は大きい。それを、食という形で、品格を維持しながら、これまでのところ具体化したこの企業は魅力ある存在になるだろう。

目論見書から、もう少し数字をひろってみると、

従業員数  49(16)
平均年齢  28.7
平均勤続年数  1.2年
平均年間給与 4,822,262円

こぶりで機動力がありそうだ。

目論見書を読むときに、もう一つ忘れてはならないのは、リスク要因である。業界全体のイメージをつかみたいときは、この事業上のリスクなどという項目で説明されているこのリスク要因を読むのがいい。競合や規制などが全般的に書きこまれている。ただ、少々保険の定款のようなところがあって、紋切型になりがちな部分でもある。ただ、その会社固有の留意点も見つかるので、面白い。

この企業にとっては、企業の中核価値を形成するコミュニティがどのように運用されていくかが当然ながらカギである。そのコミュニティの濃密さを示す、常連や派閥の持つネガティブさをうまく回避しながら、どのように、Integrityを保つかが経営の最優先事項である。その観点から、「サイトの健全性の維持について」という項目があった。

「「クックパッド」では不特定多数の利用者同士が「つくれぽ」や「ごはん日記」等で独自にコミュニケーションを図っており、こうしたコミュニケーションにおいては、他人の知的財産権、名誉、プライバシーその他の権利等の侵害が生じる危険性が存在しております。

このため、禁止事項を利用規約に明記するとともに、利用規約に基づいた利用がされていることを確認するためにユーザーサポート体制を整備し、利用規約に違反した利用者に対してはユーザーサポートから改善要請等を行っているため、一定の健全性は維持されているものと認識しております。

なお利用規約に明記されている禁止事項の内容は以下となっております。
① 当社、他の利用者もしくは第三者の著作権商標権等の知的財産権を侵害する行為、又は侵害するおそれのある行為
② 他の会員もしくは第三者の財産、プライバシーもしくは肖像権を侵害する行為、又は侵害するおそれのある行為
③ 特定個人の氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど第三者が見て個人を特定できる情報の提供
④ 一人の利用者が複数のメールアドレスを利用して重複してIDを取得する行為
⑤ IDの使用を停止ないし無効にされた利用者に代わりIDを取得する行為
⑥ 他の利用者もしくは第三者を差別もしくは誹謗中傷し、又は他者の名誉もしくは信用を毀損する行為
⑦ アクセス可能なクックパッド又は他者の情報を改ざん、消去する行為
⑧ 当社又は他者になりすます行為(詐称するためにメールヘッダ等の部分に細工を行う行為を含みます。)
⑨ 本人の同意を得ることなく、または詐欺的な手段(いわゆるフィッシングおよびこれに類する手段を含みます。)により他者の利用者登録情報を取得する行為
⑩ 当社が事前に書面をもって承認した場合を除き、本サービスを使用して営業活動、営利を目的とした利用及びその準備を目的とした利用行為
⑪ サービスの運営を妨害する行為。他の会員または第三者が主導する情報の交換または共有を妨害する行為。信用の毀損又は本利用規約に違反する行為。公序良俗に違反する行為
⑫ 上記行為の他、法令、又は本利用規約に違反する行為。公序良俗に違反する行為
⑬ 上記各号のいずれかに街頭する行為(当該行為を他者が行っている場合を含む。)が見られるデータ等へ当該行為を助長する目的でリンクを張る行為
⑭ その他当社が利用者として不適当と判断した場合

しかしながら、急速な利用者数の増加による規模拡大に対して、サイト内における不適切行為の有無等を完全に把握することは困難であり、サイト内においてトラブルが発生した場合には、規約の内容にかかわらず、当社が法的責任を問われる可能性があります。また、当社の法的責任が問われない場合においても、トラブルの発生自体がサイトのブランドイメージ悪化を招き、当該事業及び業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

なお当社は、今後想定される事業規模拡大への対応も含めて、監視機能強化のためユーザーサポートにかかる人員増強等、サイトの健全性の維持のために必要な対策を実施していく方針でありますが、これに伴うシステム対応や体制強化の遅延等が生じた場合や、対応のために想定以上に費用が増加した場合には、当社の事業及び業績に影響を与える可能性があります。」

この無味乾燥な文章を読みながら、思わず、この企業が将来直面するさまざまな課題を思い浮かべてしまった。

いずれにせよ、この会社は早晩、株式公開という門をくぐる。そして企業というものにとって、それは始りにすぎない。新聞、雑誌、テレビ、2チャンネル、ヤフーの掲示板などで、さまざまなノイズが経営陣にふりかかってくる。時価総額は、経営陣が決めるのではなく、経営陣に対する市場の期待によって決定される。いったんついた時価総額から、市場が、必要な成長カーブを逆算して押しつけてくる。そんなこと知ったこっちゃないと、我が道を往くのはそんなに簡単なことではない。経営者特に、上場企業の経営者であるということの風圧は高い。その責任先頭の義務に耐えながら、雇用を維持するプレッシャーに耐えられるかどうかは、自らが生み出しているサービスや製品が世の中の役に立っているというシンプルな想いにかかっている。それが最後のところで、孤独な経営者を支えることになる。