21世紀ラジオ (Radio@21)

何かと気になって仕方のないこと (@R21ADIO)

ツイッターの時価総額は1.6兆円?

金融危機の特徴は、それまで当然のように依拠してきた価格評価の仕組み(valuation)が、いかに多くの前提に基づいた、ある意味,砂上の楼閣であったが一度に明らかになる点にある。

それは、金融工学という新しい学問の中で次々と作りだされたデリバティブのプライシングに、もっとも先鋭に現れてくる。でも、世の中で、売買されるものの評価というものは多かれ少なかれ「お話」のように頼りないのだ。

株式や債券などというものは、それに比べれば長年使われた評価方式によって大量に取引されているから、持ちはいいのだけれど(危機の最終過程で崩壊するという意味)やはりふわふわしていることに変わりはない。

たとえば新規公開などいう状況で株式の評価もかなりふわふわしているということが顕在化する。小売のような類似企業が多いセクターであれば、既存の企業の財務数字や株価を比較して、その新しいプレイヤーの時価総額も決定されていくことになるが、僕らが関心を持っているインターネットなどの、比較対象があまりないところでは、これがかなり難しいのだ。

インターネットバブルの頃、モルガンスタンレーに、インターネットの女王と呼ばれるようになった証券アナリストがいた。彼女のお筆先から書きだされるストーリーによって、多くのインターネット企業の株価が青天井に上昇したのである。

小売企業などと比べて、比較対象がないところに、新しい価値を生み出していくのだから、女王というよりは神のような境地だったはずだ。インターネットバブルが弾けた後に、ミーカーらのインターネット分野の証券アナリストは、手のひらを返した世間から戦犯として叩かれることになった。世界の始まりにあって、比較対象のない世界に値段をつけるということは、批判する気になれば、どうとでも批判のできることなのである。

証券のバリュエーションの世界では、上に述べたような類似比較法という便法のほかに、DCF法(割引キャッシュフロー法)といって、将来その企業が生み出すキャッシュフローをもとにその企業を評価するというより「正統的」手法がある。でもこの場合でも、その企業が将来どのような利益やキャッシュフローを生み出していくかということに対して誰かがシナリオ(多くの場合は経営者)を書かなければ、その価値の計算はできないのである。

今は赤字でも、将来急激なキャッシュフローを生み出す企業であれば、そういったシナリオをキャッシュフローという数字に置きなおすことができるならば、きっちりとプラスの企業価値を導出することはできる。

ただ、いまだに、ビジネスモデル(どうやって黒字を生み出すかの仕組み)すらできていない企業でも評価しなければならないことがある。ベンチャー投資の真骨頂というところだ。

たとえば、収入がほとんど生まれていないはずのツイッターでも既に5500万ドル(約53億円)の資金調達を行っている。

ということは、誰かが、何らかの形で、ツイッターという会社の全体の価値を評価して、その何%かにあたる現金を投資したということだ。

TechCrunchのMichael Arringtonが、2009年度版のソーシャルネットワークスの企業価値ランキングという記事を載せている。この中で、彼らのソーシャルネットワークスのバリューションの仕方が説明されていて面白かった。

http://www.techcrunch.com/2009/06/04/the-true-value-of-social-networks-the-2009-updated-model/


彼らはComscorePriceWaterhouseCoopersなどの推計値を使って、バリュエーションを行っている。ステップは極めてシンプルだ。

PWCの各国別インターネット広告支出の推計値を使って、オンライン一人当たりの平均広告支出を計算している。例えば、米国では2008年のインターネット広告支出の推定合計は252億ドルなので、この数字を、Comscoreの推定による1億9100万人という、米国のオンライン人口数で割って、一人あたり132ドルという平均インターネット支出を計算している。

こんな方法で計算した、トップランキングを見ると

①英国 213ドル
②豪州 148ドル
デンマーク 144ドル
④米国 132ドル
となっている。

その次に、個別市場のユーザー当たりの平均インターネット広告支出に、それぞれのSNSが、個別市場で持つユニークユーザー数にかけて、そのSNSがサービス展開をしているすべての市場を足し合わせたものとして、バリュエーションを行っている。一種の加重平均評価額である。つまり、一人当たりインターネット広告支出の大きい国でユニークユーザーを多く獲得する方が企業価値は大きくなるという考え方である。

この観点で計算した企業価値スコアを並べると、その比率が計算できる。次に、既に、ベンチャーキャピタルや企業からの出資や買収において、使われた時価総額を使って、このスコアを実際の時価総額に変換するのだ。具体的には、このモデルから導出されたマイスペースのスコアがフェイスブックの65%なので、2009年のフェイスブックの調達時時価総額100億ドルを前提にすれば、マイスペースは65億ドルになると考えるのである。

ランキングの中から、知っている名前をはじき出してみると、

1 フェイスブック 100億ドル
2 マイスペース   65億ドル
4 ツイッター   16億7800万ドル
5 リンクドイン   7億6800万ドル
7 アメブロ   6億1300万ドル(588億円)
13 ミクシー 3億6600万ドル(351億円)

日本の企業も含まれているので、面白いのだが、このバリュエーションモデルによると、アメブロを持っているサイバーエージェントが600億円ぐらいの時価総額で、現金を150億円持っているので、M&Aの時に使われるエンタプライズバリュー(時価総額+有利子負債―現金)という買収価値は、450億円となり、1部門にすぎないアメブロの価値以下となっているという計算になる。

しかも、アメブロは赤字で、サイバーエージェントは、40億円以上の連結営業利益を上げているFX事業と既存事業というのがあるので、バリュエーション的にはどうなるのかとちょっと気になってしまう。

ミクシーに至っては、時価総額900億円で保有現金が100億円とすると、先ほどのエンタプライズバリューが800億円だが、上の試算では、351億円となっているので、市場価格の方がはるかに上回っている計算になる。

ただ、この試算は、2009年にどこかの投資家がつけた100億ドルという評価額を正しいとすればというロジックなので、あたりまえだが一つの「お話」にはすぎない。

しかし、誰かがつけたそれらしい「お話」に基づいて、市場価格というのは計算されていくことになる。