21世紀ラジオ (Radio@21)

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イランのインターネットトラフィック規制

イランは、アヤトラ・ハメネイの、選挙は正当であったという発言によって、一時期、沈静したかに見える。よその国の民主化をめぐる議論というものを判断するのは簡単じゃない。国ごとに、その正統性というものは異なるからだ。アメリカ発のツイッターフェイスブックなどのウェブサービスが抑圧された民衆を力づけると、単純にものごとを見ることには、アメリカ人じゃない、自分には違和感がある。イランや中東についての欧米の視線も、日本を含むアジアに対する視線と同様オリエンタリズムに呪縛されている。イランの大多数の人々が、都市部の一部のはねっかえりが、欧米帝国主義にまみれたインターネットを悪用して、正当な手続きで遂行された国民の政治行為に泥をあびせていると考えていないとも限らない。ブッシュ的オリエンタリズムだったらそういった大多数は間違っていると断じるのかもしれない。

そんなことを考えながら、ニューヨークタイムスを眺めていたら、米国のネットワークセキュリティ関連のArbor Networksが今回のイランの大統領選挙の前後にイラン政府がインターネット通信をどのように規制していたかのラフスケッチを示していた。

http://asert.arbornetworks.com/2009/06/a-deeper-look-at-the-iranian-firewall/

イラン政府は、オンラインビデオとEメール中心にインターネットをブロックしていたことが推測されている。

イランでのインターネット通信の主要プレイヤーである6社のISPや、Internet Observatoryという団体の調査に基づいて、Arbor Networksはイラン政府の動きを推測している。

それによると、選挙前にビデオトラフィックの大きな上昇があった。おそらくこれは国外のニュースソースへのイラン国内の関心の高さを反映しているのだろうと推測している。そしてこれは午後6時に停止している。テヘランの土曜日に、選挙前の状態に戻ったウェブとは異なり、今でも、選挙前の状態には戻っていないという。

Eメールもビデオと同様な動きを示している。

これらの調査によると、イランの通信行政当局である、DCIは、選別的に限られたインターネットアプリケーションをブロックしたり、制約したようだ。

一般的にいって、インターネットのトラフィックのほとんどは(全インターネットトラフィックの約4割から5割)ウェブページに関連するものだ。そしてこのウェブトラフィックの大半は(グーグルやフェイスブックでないかぎり)国内のISPや、数百万の関連するエンドユーザーとのものなのである。イランもその例外ではない。

調査によれば、イランへのウェブトラフィックは、政府のフィルタリングの変更によって、大きな影響を受けていないようだ。DCIがフィルタリングインフラを今回のために追加した形跡はない。

イランを出入りしたストリーミングビデオのトラフィックはこれとは随分異なっている。選挙直前にビデオトラフィックの大幅な増加がある。(これはおそらくイラン国内の海外のニュースソースへの高い関心を反映しているものと推測している。)そしてビデオの場合は通常のウェブの場合とは違い、選挙以前の水準には戻っていない。

次にEメールだが、選挙の直前にEメールトラフィックの上昇(とりわけ国外へのメール)がみられる。調査データによると、DCIが、選挙終了前に、国外へ向かうメールの一部をブロックしはじめていることがわかる。選挙後には、Eメールトラフィック自体が減少した。これはおそらくDCIのフィルタリングの強化を表しているのかもしれない。)

最後に、DCIのファイアーウォールがブロックしているアプリケーションごとのを見ておく。チャートは、選挙の前後で、アプリケーションごとにトラフィックが平均どの程度減少しているかを比較している。

SSH 84.05%
Flash 82.23%
Bittorent 82.06%
POP 73.6%
Alternative Web Ports 70.22%
HTTP Proxy 69.51%
Web Cam 68.33%
SMB 57.12%
Web 51.15%
Mail 49.18%
FTP 46.31%

急速に強化される、イランのファイアーウォールが、ウェブ、ビデオやほとんどの双方向通信をブロックしはじめているが、一インターネットアプリケーションに一律に悪影響が及んでいるわけではない。

ただ興味深いのは、xboxWorld of Warcraftのようなゲームはこれまでのところ政府のブロックに対象にあまりなっていないという事実だ。(以上)

小国の場合、こういった騒乱が起こった場合、DCIのようなgatewayが一律にインターネットトラフィックを切断するということもありうるのだろう。実際に、ビルマで起こったのがそうだったらしい。ただ、イランは、中東の大国であり、海外のイメージほど、素朴ファンダメンタリズムの国ではない。政府は、一律にインターネットを抑圧しないのではなく、おそらく、できないというのが現実なのだろう。望むと望まざるとにかかわらず、グローバリズムはイランにも及んでいるということだろう。